suztomoの日記

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Who Gets What - and Why: The New Economics of Matchmaking and Market Design

メルペイCTOのありがたい昨年末のアドベントカレンダーで紹介されていた本を図書館で借りた。

メルペイCTOと考える新しい経済学とエンジニアリング - Mercari Engineering Blog

ノーベル経済学賞受賞者のAlvin E. Rothがマーケットデザインという経済学の分野を解説する本。世の中にはマッチングマーケット(売り手、買い手がそれぞれ相手を選ぶマーケット)が存在する。著者は医者の病院への割り振りシステムを改良した。その同僚はニューヨークとボストンの公立学校の生徒の割り振りをゲーム理論の用いたdeferred acceptance algorithmで改良した。

Cover of Who Gets What - and Why
Who Gets What - and Why

数学はでてこなかった。

Part Ⅰ

1. Introduction: Every Market Tells a Story

移植のための肝臓や飛行場の滑走路の利用など、世の中はscarce resourceが沢山あり、お金以外の手段も使って誰が使うかを決めている。

2. Markets for Breakfast and Through the Day

今まで経済学者は買うお金があるかどうかだけで買う人か決まるコモディティマーケットを対象にしてきた。この本では売る人と買う人が双方向に判断するマッチングマーケットとそのデザインを紹介する。

Matching marketには学校への入学、就職、結婚など幅広い人間の活動が関係する。

Strategic decision: 市場の他の人が何を考えているかを加味した意思決定。著者達はボストンの公立学校のマッチングを改善した。

クレジットカードの話。現金を使う人もクレジットカードの手数料分の値上げを払わされている。誰が勝者で敗者かははっきり見えないときもある。

3. Lifesaving Exchanges

昔、肝臓移植はドナーを探すのが大変だった。ドナーは妊娠時の抗体の影響で家族はできないことがある。患者の家族ではだめでも、2つのpatient-donorペア同士で肝臓を交換することでお互いに良い取引にする。Altruistic donor: 見返りなしで肝臓を提供するドナー。

Easy-to-match pairは病院内でマッチさせられる。これはいい?家や証券取引と同じで、皆がマーケットに来た方がより多くの取引が起こり多くの人が満足する。

初めは2ペアや3ペア(donor-patient)の輪を作っていたが、altruistic donorから始まる鎖のほうが良いとわかった。手術は同時にしなくても皆逃げない(nonsimultanius surgery)。Matchが難しいペアにもチャンスが増えた。

良いMarketが持つべき性質: thick, uncongested, safe, simple, and efficient.

Part Ⅱ. Thwarted Desires: How Marketplaces Fail

4. Too Soon

Unraveled market. オファーが早いじきに出されるマーケット。例えばアメリカで有名な会社に入ると、他の会社から2年働いたあとに有効になるオファーが来たりする。

Exploding offer. 短い期間だけ提示されるオファー。

Inefficient market. もし仮に他の方法で取引に参加したみんながより幸せになるとき。

胃腸病学医(gastroenterologist)の卒業後の病院への割り振りは青田刈りが行われていた。医学生が早く貰ったオファーを断ってもいいことにした。これにより病院側に早くオファーを出すインセンティブがなくなった。

整形外科医のマッチングも同じ問題を抱えていた。彼らは学生にオファーを後で取り消すことは出来なかったが、早くオファーをあげた人にペナルティを課すとこにして解決した。組織の文化によって解決方法は異なる。

5. Too Fast: The Greed for Speed

High frequency tradingは早過ぎて市場参加者から一部の業者がお金を稼いでいる。それ以外の人が(無駄な)コストを払って防衛することになる。またFlash crashの問題もある。 取引を1秒毎にする案があり、SECはこれを好感的に見ている。

裁判官の裁判所への採用も青田刈り。5回ぐらい数年おきにルールを設定したが守られない(法の番人なのに)。2番手の裁判所が青田刈りを始め、1番手もそれに続かないと良い学生が取れなくなる。問題の原因でなく症状だけに注目したルール改正は上手くいかない。

日本の新卒採用も同じような問題を抱えている。公務員試験の日と同じ日に採用イベントをやったり。

6. Congestion: Why Thicker Needs to Be Quicker

AirBnBは利用者とホストが家のパソコンでやりとりしてたので、宿が決まるのが利用者にとって数日かかることがあった。今では双方ともスマートフォンを使ってやり取りするので迅速に取引が終わる。

ニューヨークの公立高校の出願はそれぞれの家庭が希望する学校リストを出してそれが受け入れられるかどうかを3回繰り返す。これは郵便で行われてウェイトリストに入るか、オファーを受けるかを決めるのにとても時間がかかる。学校も1番手の人をとりたいので、自分が2番目に行きたい高校を2番手に書くのが悪い戦略になりうる。自分の本心を書くことにリスクがある。

7. Too Risky: Trust, Safety, and Simplicity

取引したものがちゃんと貰えないリスクがあるマーケット(特に不法なもの)に多いがトータルで見るとちゃんとしたマーケットを使うのより高いコストがかかる。

評判は重要だ。eBayやAirBnBはインターネットで見ず知らずの人達が取引する安全を提供している。

以前、eBayの出品者評価は良いものばかりだった。なぜならば悪いことを書くとやり返されるという不文律があったから。レビューが良い物ばかりだと情報が少ない。そこで3人の経済学者と協力し手レビューを匿名にするとちゃんとした正直な評価が書かれるようになった。レビューを書くことに安全性を与えた例。

eBayのオークション機能は最大入札額を秘密にすることができる。ギリギリに入札される恐れがある。

取引を成立させるのに必要な情報を出すことが憚られるとき、マーケットは非効率である。

Covisintという会社は自動車部品の開かれたマーケットを作ろうとしたが、部品会社はその値段を公開することを嫌った。Covisintは失敗した。FreeMarketsは会社の事務用品のマーケットを作ろうとしたが同じ理由で失敗。既存のmatching marketの参加者は顧客ごとにやっている割引を隠したい。

Boston Public School. Kindergartenにfull-dayで預けたい家族の例。家族の第一志望は遠くのfull-day、第二志望は近所のhalf-dayの学校。近所のほうを第一志望にすれば近所優先があるので入れそう。でも近所のを第二志望にすると、第一希望の人たちで既に埋まってしまう。本当の希望のままで出すとどちらにも入れない。

But being easy to describe isn't the same as being easy to navigate

書面では第一希望が通っている家族が80%だが、それは皆が安全策をとって1番行きたい学校を書いてないから。

Part Ⅲ. Design Inventions To Make Markets Smarter, Thicker, and Faster

8. The Match: Strong Medicine for New Doctors

1952年に(まだゲーム理論という分野がはじまる前に)医者のマッチングのためのclearinghouseを作った人がいた。

Matching is stable if there is no pair of an applicant and an employer that are not matched but would prefer to be. StableでなくしてしまうのでBreaking pairと呼ばれる。Breaking pairが存在するとclearinghouseの外で連絡してマッチを成立させてしまう。

そこでDavid GaleとLloyd Shapley(ノーベル賞受賞)はdeferred acceptance algorithmの数学的証明を発表した。応募者と会社はそれぞれ希望順位をclearinghouseに伝える。後はコンピュータがオファーを全ての企業の希望順に出す。応募者は1番良い会社のオファーを残し他を捨てる。次のステップでは捨てられたオファーを消して、次の順位の人達に会社がオファーを出す。これの繰り返しで企業の席が全て埋まるまでステップを繰り返す。この方法だとbreaking pairが存在しない。

カップルがいると上手くいかないことがある、とか理屈をこねた本を出したら著者に電話がかかってきて一緒に改良することになった。理論だけだったのに実践者になる大転換。元のアルゴリズムを改良させ解決。理論的には上手くいかない事がありうるのだが、なぜか殆どの場合で上手くいくアルゴリズム。実世界の問題が新たな理論を引き出す良い事例だった。

9. Back to School

ニューヨークの高校生振り分け問題。Deferred acceptance algorithmを使う。自分のスコアの割にリストが短くてマッチしなかった人がいた問題はあったがおおむね上手く行った。

ボストンの公立幼稚園にも適用した。家族のスコアは保育園と近いかどうか。親達は他の人達の動向を気にする必要がなくなった。

ニューオリンズやワシントンDC、日本やイギリスなどの他の国でもdeferred acceptance algorithmは使われようとしている。

10. Signaling

自分が相応しいというシグナルと、自分は興味があるというシグナルの2種類がある。大学入試においてテストのスコアは前者。キャンパス訪問は後者。

行列のできるレストランが値段を上げないのは行列というシグナルを利用したいから。客が払う待つというコストは無駄になる。

オークションは買い手がシグナルのために払うコスト(bid)は売り手に無駄なく払われる。

オークションではtrue valueと落札価格の差が入札者の利益。First-price auctionでは入札者にとってのtrue valueを言ったらいけない。利益がゼロになるから。Second-price auctionならtrue valueでもいい。

電波オークション。今まで値段がついていなかったものの値段をつけるprice discovery. 同時に複数の周波数をオークションにかける。電話会社らはまとめて買いたい。バラで買っても役に立たない。既に入札しているのでなければギリギリの値段釣り上げを禁じる。よくわからん。

検索結果やバナーの広告もオークションで決まっている。クッキーを使っている。人々の目線(eyebolls)がオークションにかけられている。

Part Ⅳ. Forbidden Markets and Free Markets

11. Repugnant, Forbidden ... and Designed

Repugnant: ある人達はやりたい取引でも、他の人たちはやって欲しくないもの。

カリフォルニアで禁じられてる食用の馬肉。1920-1933のアメリカ禁酒制度。アメリカの州によって制度が異なる同性婚奴隷制イスラム教やユタ州での一夫多妻。中世ヨーロッパでは教会が利子を付けてのお金を貸し借りを禁じた。

場所や時代によって禁じられている取引は変わる。

イスラム教では利子をとってお金を貸してはいけないので、家を買うときに銀行は家の一部を所有し、そこの賃料をとる。

肝臓のドナーにお金をあげればドナーが少ない問題が解決するのでは?お金持ちだけが利益になるという懸念は政府の一元管理のみを許すという対策がある。金銭的に困っているドナーはやらざるを得ないという懸念は1年間の頭を冷やす期間を作る対策が打てる。ドナーが退役軍人のような扱い(政治家が自慢する、飛行機に早く乗れる)を受けられる日は来るか。

ナイジェリアではドナーがいるにもかかわらず移植ができない人が沢山いる。彼らにチェーンに加わって貰ったらどうか。(移植をしない)透析患者は$250kが四半期ごとにMedicareに掛かるから経済的にも理にかなう。

大麻合法化によって犯罪は減るだろう。中毒者は増える。それぞれどのぐらい影響があるだろうか。

セックスを規制するときは人の欲望が大きいことを気をつけるべき。

12. Fred Market and Market Design

3種類のレストラン。

  1. 予約が必要で、注文してから作る店
  2. お店の前で並ぶ店
  3. レジで直ぐに料理をもらえる店

Congestion. 1つ目は厨房が混んでて、2つ目はテーブルが混んでて、3つ目はレジが混んでる。2つ目のレストランはお客様が去ったらプラスチックのテーブルクロスをすぐに拭く。

Safety. レストランの食の安全。Countyがレストランの衛生のルールを設定して検査してる。お金が払われる安全。クレジットカード。本のコピーライトは出版社や著者を守る。

アメリカのヘルスケアは健康な人をそのままにするよりも、透析をした方が儲かる。良いデザインは大会社のポリシーにあるだろう。会社は社員を健康にする動機がある。

カリフォルニアの水不足。必要な人に水が届いていない。

マーケケットデザインは常に移り変わる。既存のものと繋がる為に小さな変更を繰り返すものである。

マーケットによって言葉の使い方やマナーは異なる。自然発生的にそうなったことが多い。

既存のマーケットの悪いところを直そうとしても直せない場合もある。新しく直すこともできる。それは素晴らしいチャンスだ。マーケットは人間が生み出したもので自然の物ではない。マーケットデザインは人類の生み出した素晴らしい最古の発明に貢献する手段だ。